連邦議会下院は7月28日、「半導体製造支援・科学法(CHIPS and Science Act)」案の採決を行い、賛成243票、反対187票で、これを可決した。また、連邦議会上院は、前日の7月27日に、賛成64票、反対33票で同法案を可決しており、バイデン大統領による署名を経て法制化されることになる。「半導体製造支援・科学法」は、世界的技術競争において米国が中国に対する優位性を維持するために5年間で2,800億ドルの連邦資金投入を許可するもので、科学関連省庁予算では、①米国科学財団(National Science Foundation:NSF)予算88億ドルを5年間で2倍以上に拡大、②エネルギー省(Department of Energy)科学局(Office of Science)予算75億ドルを45%増、③米国標準技術局(National Institute of Standards and Technology:NIST)予算8億5,000万ドルを50%増、などが定められている。但し、最終的に各年度の予算割当を決定するのは上下院歳出委員会で、同法案の下で拠出が確定したのは、1)半導体産業支援のために5年間で520億ドルを投資、2)ハイテク製造業者を対象とする税額控除240億ドル、のみとなることから、科学省庁の予算増は実現されない可能性を危惧する声もある。「半導体製造支援・科学法」が科学関連省庁にもたらす主な変化は以下の通り。

  • NSFに対し、人工知能(AI)・量子情報科学・気候変動対応などといった商業可能性及び社会インパクトをもたらすイノベーションを促進する技術局(technology directorate)を新設する権限を付与。
  • 大都市圏から離れた州における研究機関への研究支援を全体の20%とすることをNSFとエネルギー省に指示。また、これらの州における経済成長促進を目的とした地域技術センターネットワークの創設を商務省(Department of Commerce)に指示。
  • 連邦助成を受給する米国拠点の科学者が、中国・ロシアが資金提供する外国人人材養成プログラムに参加することを禁止。また、国を問わず、外国が資金を提供する外国人人材養成プログラムへの連邦職員による参加を禁止。
  • NSFに対し、孔子学院(Confucius Institute)を運営する大学への助成を禁止。また、外国政府から5万ドル以上の寄付を受給する米国大学に対し、NSFへの届け出を義務付け。さらに、連邦研究助成受給機関に対して、教職員に研究安全保障研修を行うことを義務付ける他、大学における研究安全保障強化方法について話し合う独立フォーラムの立ち上げをNSFに指示。

 

なお、本法案への署名の意思を表明したバイデン大統領の声明は、<https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/07/28/statement-from-president-biden-on-house-passage-of-chips-and-science-act-to-lower-costs-create-good-pay-jobs-and-strengthen-our-national-security/>から閲覧可能。

 

Science, What a big new U.S. law that reshapes science agencies could mean for researchers

https://www.science.org/content/article/what-big-new-u-s-law-reshapes-science-agencies-could-mean-researchers